『科学哲学』(サミール オカーシャ)
まえがき
今は数理工学を学んでるけど院では科学寄りの分野に戻るつもりなので、さすがに一回くらい科学哲学を体系的に学ぶべきだろうと思って読み始めた。真面目に講義取ったり本読んだりをしたことはなかったけど、どこかしらで聞いた話がちらほらあったしとくに詰まることなく読めた。中高大の教育環境がよかったんだなあと思う。圧倒的感謝。あとはちょうど高校のとき原発事故があって、この手の話に向き合わざるを得なかったのもあるかもなあ。

- 作者: サミールオカーシャ
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/03/25
- メディア: 単行本
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読んだのは上の本。
内容のまとめと思ったこと
1 科学とは何か
科学革命以降の科学史をふりかえりつつ、「なぜ科学哲学を学ぶのか?」や「科学とは何か?」といった問いに挑んでいく章。当然だが完全な解答が与えられるわけではない。
科学とは何か?
科学と擬似科学をどう区別するのか?という例を用いて、科学哲学がどう「科学の研究技法」を分析するかを説明している。この問いに関して一番有名なのはホパーの反証可能性だろう。実際この本でもまず先にホパーについて触れられている。
反証可能とは、理論は何らかの予測をなし、場合によっては観察結果と矛盾してその理論は棄却されうることである。ホパーは反証可能性が科学の根本的な特徴だと主張した。しかしこれはナイーブ過ぎると指摘されている。例えば、地動説は天王星の軌道予測に失敗し続けた。そこで天文学者は未知の惑星が存在していると考えたし、実際それは正しかった。しかしこの行いはホパーの意味で正しいのだろうか?天王星の軌道予測に失敗した時点で地動説は棄却されるべきではなかったのだろうか?未知の惑星の存在を仮定してよいのなら地動説は反証不能な理論になってしまうのではないだろうか?
ホパーの基準は単純すぎる。このことは、どこまでが科学か境界線がひくことがそもそも可能なのかという問いを投げかけている。
『位相と論理』を読んだ
『位相と論理』という本を読んだ。タイトル的に位相空間を使ったヤバい意味論をガンガンやる本かなあと思って読み始めたけど、実際には束論と位相の本だった。要するにStoneの表現定理+α。他の本でカバーされてる内容も多かったけど、束を前面に出した簡潔な議論とか、位相空間とフレームの随伴とか見所は多かった。

- 作者: 田中俊一
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2000/07
- メディア: 単行本
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読んでから気がついたけどこの本高い。びっくりした。
どんな本なの?
この本では論理はブール代数のことを意味している。ブール代数と位相空間、あるいはもっと一般に束と位相空間にはどういう関係性が有るのかを探っている。主要な結果は以下の2つである。
特段今すぐ使える知識が身につくという感じではなかったが、束、論理、位相、圏あたりの幅広い話に触れられて楽しいのでオススメ度は高い。まあ気が向いたときとか、ちょっと束やりたい気分の時とかに気軽に読むといいと思う。薄いし。圏を知ってないと最後の随伴のところのモチベがわかりにくいかもなあとは思った。ここが面白いところなんだけど。逆に圏を知ってる人が読むと、一般論の具体例が得られるし、真面目に証明読まなくてもいいので楽しいと思う。僕は楽しかった。
各章の感想
1 順序と束
名前の通り束論の基本をやる。Heyting代数が出てきたあたりから随伴が出てくる。束における随伴の存在定理が、各点Kan拡張で証明できて楽しかった。他にも随伴と極限の保存とか圏論で束論をやれて楽しい。この辺はSGL*1とかもそうだけど。
2 命題論理とブール代数
ここもそのままタイトル通り。命題論理がブール代数の例になっていることを見る。完全性定理を束論で示すのは簡潔で面白かった。最後に付値の空間に位相を入れて、後のStone双対性に話をつなげている。
3 構造とモデル
超べきでコンパクト性定理を示す。確かに束論の応用と言えなくもないよなあ。
4 ブール代数の表現定理
圏の言葉は使わないが、ブール代数との圏とStone空間の圏が圏同値になるのを見る。Stoneの表現定理自体は新井基礎論でやったけど、束の言葉で読んだのは初めてだし、圏同値くらいいい性質がなりたつのは知らなかった。良さ。
*1:Sheaves in Geometry and Logic
"Internal set theory: a new approach to nonstandard analysis"を読んだ
あさぜみ*1で発表しておいて今更感あるけど、Internal Set Theoryを勉強した。"Real Analysis through Modern Infinitesimals"*2とかも読んだけど原論文が一番面白かった。
Internal Set Theoryとは
超準解析を公理化したもの。ZFCに1つの述語(st(x))と3つの公理(transfer, idealization, standarlization)を追加してISTにすると、今まで超フィルターとかでがんばって超準モデルを構成してたのがうまく扱えるようになる。しかもZFCの保存的拡大*3になってて、stを含む論理式は含まない「等価」な論理式に変形できる。
超べきモデルを作ったりしなくていいところと、「既存の数学」との対応関係が明確なとこが個人的に面白かった。後は久しぶりに公理論的集合論使えて楽しかった。
各章の内容
1. Internal set theory
3つの公理を導入して、いくつかこれから使う定理を準備しつつ使い方を覚えるって感じの章。追加された述語st(x)は「xはstandardである」と読む。普通の超準解析で定数記号として入れてたやるがstandardになるというイメージで大体あってる。stを含まない論理式はinternalと言う。
追加される公理を見てみよう。
、
はそれぞれ
、
の略記とする。また
は
の略とする。
は上と同様にする。
*1:毎週誰かが数理工学の話題について発表するセミナー
*2:超フィルターとかを飛ばせるので、さっさと超準解析したいビギナーが読むにはいい本だと思う。
*3:stを含まない論理式がISTで証明できるならZFCでも証明可能
クワインと対角化定理 ~計算理論入門~
はじめに
クワインとは
この前プログラミングの教科書を読んでいたら面白い問題があった。大雑把には次のような感じ。*1
自分自身のソースコードを出力するプログラムを書け。
調べてみたところクワインというらしい。細かい話をすると入力を受け取るのもダメだそうなので上の問題文よりは厳しい。詳しい話はWikipediaにある。
クワイン (プログラミング) - Wikipedia
結構難しいし、SchemeとかHaskellはまだしもCのやつとか何やってるのか初見じゃ意味不明。頭がこんがらがるのが味わえるのでぜひ考えてみて欲しい。
クワインと計算理論
ところで、計算理論をかじったことある人は「これ対角化して不動点つくればいいんじゃね?」と気がつくと思う。実際その方針でこの問題は解けるし、Cとかのわけ分からん例もこのことを理解してるとすんなり分かる。もろに理屈っぽい計算理論が割と身近に思えるクワインに応用できるのが面白い。
というわけでこの記事では計算理論を紹介しつつ、それを軸にクワインをどう作ったらいいか考えていく。計算理論は本当は厳密に理論展開されてるけれど、この記事ではフィーリングでやっていく。チューリングとか黎明期の人たちにとっては計算機は理論的な存在で、扱うのは大変だったんだろうと思うし、真面目にこの分野を研究とか勉強するならフィーリングで済ませるべきではないとは思う。だけど僕らは幸い生まれながらに計算機に親しんできた世代なので直感が使えるし、ちょっと計算理論をかじってみる分には十分だと思う。計算理論の楽しさとかクワインの作り方がわかってもらえれば幸いである。
*1:手元に本がないのでわからない
直積空間での境界作用素
A Concise Course in Algebraic Topologyのゼミ発表の準備をしてたら沼にはまった。13.4節のお話。
やりたいこと
を示す。
基本戦略
]
とするとは境界作用素と可換になる。
は
の次元。これより上の同型が従う。
やったこと
可換性を示すとき直積空間上での境界作用素を具体的に計算しなくちゃいけない。つらい。死んだ。初見だと2つの図式をどう使うのかすら分からなかった。
クソつらいけどtopological boundary mapの方の定義に従って座標入れて計算するだけ。答えがどうなって欲しいかは勘で分かるのでまだマシっぽい。もしかしたら座標入れないうまい方法があるかも知れない。写像度の計算の途中でホモトピー論のFreudenthal suspension theoremとか出て来て、この先ホモロジーとホモトピーの話の絡みがでてきそうだなあと感じてわくわくした。
おわりに
とてもつらかった。ホモロジーの定義ってめっちゃ綺麗だったわり計算しようと思うと牙を向くなあ...topological boundary mapは初め訳わからんと思ってたがこの計算する中で分かり合えた気がする。