いきるちから

気が向いたときに適当なことを書きます

ロンドン留学記

はじめに

 7/22-8/20の約1か月間,ロンドンの研究所のサマースクールに参加してきました.サマースクールでは離散トモグラフィーについてちょっとした研究をしていました.大変楽しかったです.この記事では僕の備忘録も兼ねて,何があって何を考えていたかまとめていこうと思います.

 ところで突然ですが,留学体験記というとどうせ次のような話をするんでしょという先入観がありませんか? 少なくとも僕はあります.

  • 英語力があがる.
  • 色々なバックグラウンドの人と知り合えて視野が広がる.
  • 海外から自国がどう見られているかが分かる.
  • 圧倒的成長

 まあ実際そういう側面はありました.ただ,散々言われていることを書いてもしょうがないし,自分自身の性格的にもこういうのは何か合わないなと思っています.そこで,この記事では自分のような以下の性格の人に,意外と大丈夫だし楽しかったという一例を伝えるのを目標とします.

  • 人見知り.
  • 自分のコンフォータブルゾーンから出たくない.
  • 留学中人間関係でどういうひどい目に会うか50通りぐらい想像できる(してしまう).
  • 英語力に自信がない.
  • 別に英語じゃなくてもコミュニケーションに自信がない.
  • 人生がどちらかというと無理.

大事な話

 全部書くととても長いので,自分が思ったことのまとめを書きます.

なぜ応募したのか

 始めに「どうせ次のような話をするんでしょ」で上げた4つが理由です.将来博士課程への進学を考えている以上海外は避けて通れないし,M1の夏に何らかの形で短期留学に行こうと考えていました.そこにちょうど渡航費滞在費全部向こう持ちというめちゃくちゃ美味しい話が転がり込んできたので,「これはもう行くしかない」と応募することにしました.

 留学に不安を感じていたし,実際渡航前はかなりナーバスになっていたけど,メリットは認識できてたので応募しました.まああとは,経験則的にこの手の曖昧な不安感を覚えてるときは無視して行動した方がよいとわかってたのもあります.

英語について

 案外なんとかなりました.というかどうせ元々のコミュニケーション能力で頭打ちになるので大して必要がなかったです.

 研究に関しては,毎日研究員や他の参加者と議論していてもそこまで苦ではなかったです.理由の一つは,渡航前に論文を一報書いていて,基本的な言い回しが入ってたからだと思います.分野的にも得をしていたなと思う場面がいくつかありました.応用数学に関しては定型文だけで話ができるし,そういうのがかえって好まれるらしい*1 ので,難しいこと考えずにしゃべれました.他にも,どうせ最後は数式を書いて伝えるしかないので,比較的口語に依存しないのが楽でした.

 どうでもいい雑談は時折厳しいところがありました.ただまあこれは元々のコミュニケーション能力だと思います.日本でも無理だし.基本的に気の置けない友人か,共通の話題があるとき以外の雑談は難しいし地蔵になっちゃいます.なんか英語関係ない話になってきましたね.

 研究と日常生活の両方で,優しい人たちに囲まれていて,しかも大部分がネイティブじゃないという環境に助けられました.「聞き返す or 聞き返される」みたいなのは良くあることだし,誰も気にしている感じではなかったので,気負わずに話せました.あと,「どうせ周りもめちゃくちゃな英語をしゃべっているので,僕もめちゃくちゃでいいか」と開き直れたのも良かったです.

コミュニケーションの様式の学習

 これは一番意外でしたが,留学したおかげでどういう風に雑談をすればいいのかを学習できました.

 まず前提として,日常会話のほとんどはローコンテクストで当たり障りのないものになります.というのも,サマースクールは参加者のバックグラウンドがばらばらで,共有している話題がほとんどないからです.しかも,もろもろの地雷を避けることを考えると,込み入った話題は選べません*2.まあそうは言っても例外はあって,ヨーロッパの人々はドラマの話で盛り上がってたし,Brexitに関してリベラルな立場からエクストリームな意見*3 が飛び出したりしてましたが.

 そういう極限まで文脈によらない会話をしていたので,そこで観察した技法は他の場面にも応用可能なものになります.まあ知っている人には当たり前なのかもしれないけど,「(昨晩/週末) なにしていたか聞く」とか「相手の国の文化について興味を持って簡単なこと*4 を聞いてみる」とかそういうのが典型的な話の振り方なのかと観察できました.日本で友人と話したりハイコンテクストな会話をするときと比べて,明らかにこの手のコミュニケーションのテンプレートの出現率が高かったと思います.

総論:行ってよかったのか?

 自信を持って楽しかったし行ってよかったと言えます.研究は面白かったし,周りの人とも楽しくやれました.英語での会話にも自信がつきました.ただ,状況がかなり良かったというのは言及しておきたいです.

 「英語について」の節でも述べましたが,人間関係には相当恵まれました*5.実際自分が渡航前に妄想していたような目には全く合わなかったです.こういう環境に恵まれたからこそ楽しめたし,そうじゃなかったらつらかったかもなあと思ってます.人見知りとか,コンフォータブルゾーンから出たくないとか,そういう性格が悪い方向に効かないかは環境の影響が大きいんじゃないかと思います.英語力が大丈夫かもかなり環境が効いてそうです.


どうでもいい話

 この先は,比較的どうでもいいけど僕が面白いと思ったことをメモしていきます.

  • 2週間経ったあたりから独り言がだんだん英語混じりになっていく.帰国したらすぐに治った.
  • 飯事情はつらかった.お金を出してちゃんと店を選ぶとおいしいものが食べられるのだけれど,適当にふらっと入ったときの地雷率が高い気がする.といっても薄味というだけで,食えない類ではないのだけど.今回に関しては近所に安いスーパーしかなくて,たまにいいものが食べたくなった時にちょっと困った.あと基本的に高い.
  • イギリスは思ったより*6 テキトーな世界観だった.面白エピソードとしては,すぐに送ると言われた飛行機のe-ticketが長らく忘れられてた挙句,始めに言われてたのと違う便というのがあった.他にも,welcome drink で顔が全く分からないのに皆が店のどこにいるのか頑張って探すとか,初日の集合場所が鍵しまってて入れない場所だったりとかそういうのがあった.
  • ロンドンの夏は涼しくて日が長くてとても過ごしやすい.毎年行きたい.日本に帰ってきて飛行機降りた瞬間湿気のつらさで帰りたくなった.
  • 「来年日本旅行行くんだ.この島とか綺麗らしいから行きたい.」と言いながら北方領土を指さされたときは,どうしたらいいか分からなくて曖昧な笑顔を浮かべたまま沈黙してしまった.
  • お酒(とくにヨーロッパ産のビール)が安くておいしい.紅茶とかお菓子もおいしい.ヒギンスのブルーレディーがとてもおいしかったので日本で買おうと思ったらクソ高くて泣いた. 

*1:伝聞なので本当か分からない

*2:そうはいいつつも,僕は何回か政治的な地雷を踏みぬいた気がする...難しい...

*3:僕にはここに書く勇気がない.

*4:名前とか文字とか定番っぽい

*5:経験的には,応用数理界隈の人は穏やかな性格の人が多くてとても過ごしやすいです.

*6:紳士の国的なイメージしかなかった.